今年度の健康診断を開始されている企業もあるかもしれませんが、今回は健康診断の事後措置(就業上の措置の検討)について説明します。労働者の健康を守るために企業が講じなければならない重要な義務の一つです。健康診断を受診した結果とそれに対する判定は(A異常なし、C要再検査、E治療中などのアルファベット)が送付されてきますが、労働者はそれを確認し、必要に応じて医療機関で追加の検査や治療することになりますが、企業は健康診断の結果にもとづいて、異常があった労働者の就業上の措置の検討が必要になってきます。この措置の検討のための医師の意見の聴取は、健康診断を受けてから3カ月以内に行わなければなりませんが、産業医の設置の必要のない規模の企業でも義務になっています。今回は就業上の措置の検討の法的根拠、具体的な措置の内容、検討の流れなどを詳しく解説します。
法的根拠
- 労働安全衛生法 第66条の4 事業者は、医師等からの意見を勘案して、必要に応じて就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮等、適切な就業上の措置を講じなければならない。
- 労働契約法 第5条 使用者は、労働者の生命・身体などの安全に配慮する義務(安全配慮義務)を負う。
就業上の措置とは
健康診断の結果への医師の意見を踏まえて、次のような具体的な対応(=就業上の措置)が求められます。
- 作業内容の変更
例:重労働が負担になる場合、軽作業への転換 高血圧・心疾患のある人 → 肉体的負荷の少ない部署へ 失神や不整脈で突然死のリスクのある人→運転業務の制限 - 労働時間の短縮
例:未治療の疾患が発覚した際に受診行動をうながすための措置フルタイム勤務から短時間勤務への調整 - 深夜・交替勤務の制限
例:糖尿病のコントロールが不良な人 → 夜勤や交替制勤務から日勤へ変更 - 休業措置
医師の診断により就労困難と判断された場合、一時的な休業を命じることがある - 職場環境の調整 例:聴力低下の人 → 職場の騒音発生状況の確認、改善
実施の流れ
- 健康診断の実施
- 事業者が医師の意見を聴取 医師による判断・意見書の作成 「通常勤務、就業制限、要休業」のいづれかの所見が記載される ※書面での保存義務あり(3年間)
- 必要な就業上の措置を実施
- 配置転換・労働時間の変更・休業など 労働者に説明・同意取得 本人の理解・納得を得ることが望ましい
- 実施後のフォローアップ
- 定期的な経過観察と再検査
実施しなかった場合の企業のリスク
例えば医師の意見を無視して過重労働を継続させ、健康被害が生じた場合に労災認定、企業への損害賠償、刑事責任の可能性あり。安全配慮義務違反で民事訴訟に発展する可能性もあります。
対応
従業員が50人未満の事業場では、健康診断をした医療機関に就業の判定を依頼できますが、そのほかには本社に産業医がいる場合はその産業医に相談を行う、地域産業保健センターに判断を仰ぐ方法もあります。地域産業保健センターでは労働安全衛生法に定められている健康診断で、異常所見があると診断された労働者について、その健康を保持するために必要な措置についてセンターに登録している認定産業医と面談をし、意見を聞くことができます。就業上の措置を考えるにあたっては、対象者の就業時間や労働環境などの把握が必要になるため、相談の際には業務内容や労働環境の情報も医師に提供するとよいでしょう。
おおむね労働基準監督署管轄区域に設置されている地域産業保健センターでは、労働者数50人未満の小規模事業者やそこで働く方を対象として、労働安全衛生法で定められた保健指導などのさまざまな産業保健サービスが無料で提供されています。
地域のリソースとしてぜひ活用をおすすめします。
地域産業保健センターとは https://kokoro.mhlw.go.jp/health-center
地域産業保健センターの所在地
https://www.tokyos.johas.go.jp/region